The Altruism Tour
ラクラン・モートンが挑戦したAlt Tour(もう一つのツール)を振り返ります。
アスリート: ラクラン・モートン チーム: Fエデュケーション-NIPPO バイク: キャノンデール SuperSix EVO Hi-MOD
コロラド州ボルダーの素敵な部屋で、ラクラン・モートンに会い、Alt Tourと世界に与えた影響についてインタビューを行いました。数え切れない人々が、ラクランの冒険に惹きつけられました。彼はツール・ド・フランスの全ステージに加え、移動区間も自走で走り切りました。それは、距離2,400km、累積獲得標高15,000mの追加を意味しました。
ラクランは、プロトンより5日早くAlt Tourを終了。 18日間で220時間、距離にすると5,510km、累積獲得標高65,500mを走りました。このAlt Tourによって、ワールドバイシクルリリーフに505,000ユーロ(約6千6百万円)以上の寄付が集まりました。
ラクランがAlt Tourで実際に使った実際のキャノンデールSuperSix EVO-Hi Mod が寄付されます。ワールドバイシクルリリーフが主催するオークションに、キャノンデールとEF エデュケーション-NIPPOはラクランのバイクを寄贈しました。オークション参加者は、30ドルでチケットを1枚購入でき、チケットを購入すればするほど当選の確率はあがります。自転車は勝者一人に贈られ、Alt Tourによってさらに増えた収益はすべて、ワールドバイシクルリリーフに寄付されます。
ラクランは自転車に乗ることへの情熱に満ち溢れています。そして彼は、自転車が世界の人々に影響を与え、人生を変えることができると考えています。2016年、南アフリカ西ケープ州での感動的な経験は、彼に大きな影響を与えました。
ラクラン・モートン - 「私たちはそこで50〜150台の自転車を寄付しました。この2日間を決して忘れません!
私の子供時代は新しい自転車を買ってもらえる、恵まれた子供でした。一方、アフリカの貧しい家庭の子供たちは、おそらく今までこのようなものをもらったことがなく、素敵な笑顔で喜んでくれたことが本当に嬉しかったです。
自転車を渡すと『一緒に乗ろう!』と誘われ、『じゃあ一緒に乗ろう!』とみんなと一緒に乗った時は、とても感動したし、最高でした。自転車が人生を変えることがあります。私の人生も大きく変えてくれました。1,000台のバイクがあれば1,000人の人生を変えることができると感じました。」
ラクランは、人生を変えたこの経験から、サイクリングを通して良い変化を起こしたいと考えるようになりました。Alt Tourで寄付金を集めるため、ワールドバイシクルリリーフ(WBR)にパートナーシップを提案しました。RaphaとEF エデュケーション-NIPPO は、自転車に乗ることができない世界のコミュニティに1,000台の自転車を寄付することを約束しました。
ラクラン・モートン - 「Alt Tourは大好きな自転車に乗って挑戦するができたので楽しかったです。寄付金を集めるために苦労したとは思っていません。このイベントには多くの人々が関わり、そして多くの人々がお金を寄付してくださいました。サイクリングコミュニティが集まり、このイベントを支援してくださったことが本当に嬉しかったです。私自身は大したことはしていません!」
今回の工程中、肉体的な不快感や精神的な苦痛がなかったわけではありませんが、「苦しい」というフレーズ が頭に浮かぶことはありませんでした。彼はこの旅を「自主的な」ものととらえ、目的以外のことに集中してしまうことを嫌いました。
ラクラン・モートン - 「目標に向かって努力しているときもでも、困難な状況に立ち向かっているときでも、自分の内側から湧き出てくるモチベーションが重要。常に楽しむことが大切。これが私の考え方です。」
「リアルな話、今回の旅の10%は楽しいものでしたが、残りはかなり厳しいものでした。実際、日の出をバックに走る、映える写真があっても、本当はお尻が痛くて、その後45分ほど座れないということは写真からは分かりませんし、膝が痛くて周りの筋肉が温まるまで40(RPM)ケイデンスのまま、30分以上ペダルを漕がなければいけないこともありました。」
「しかし、これらは越えなければいけない小さな困難でした。いま、世界で起こっている問題と比べれば、自分のこの小さな問題に負けてしまうことは、とても恥ずかしいことだと思いました。」
冷たいビールを飲んだり、地元のパン屋の焼きたてのバゲットを食べたり、氷のように冷たいコーラを飲んだり、モートンはすべてを楽しみました。自分の力だけで旅をしていたので、このような自由な時間で体と心を癒していました。
ラクラン・モートン - 「少し立ち止まることは、良いことでした。どういうわけか、冷たいビールを飲むと少しの間、普通の生活に戻ったような気がしました。大抵5分ほど休んでから、再開しましたが、それだけで十分でした。」
「毎日夜の7時から8時にライドを終えられるように計画していました。実際には毎回、1時間から1時間半ほど前に終わらせることができたので、リラックスできる時間がありました。そのため、あまり急ぐことはしませんでした。大体、夜10時30分から11時頃に寝袋に入り、いつも疲れていたので、赤ちゃんのようにぐっすり眠っていました。」
毎朝12時間のライドの心の準備は、ラクランにとって大変なことではありませんでした。ただ、使ったテントなどの片付けは彼にとって苦しいものでした。
ラクラン・モートン - 「1日の最初の2時間は最も大変な時間でした。150歳のように感じました。(笑)目を覚ますと体全部が痛くて『もう無理だ』と思いました。朝早く起きると、荷物は露と雨でまだ濡れていたので、濡れたまま包み、後でしっかり乾かさなければいけませんでした。濡れていたため重さは2倍になりました。」
「毎日12時間も乗るのは厳しいですが、シンプルです。荷物を運び、すべて充電しておき、清潔に保ち、ベッドを作るのはもっと大きな課題でした。今回の旅はとても長かったので、手を抜くことはできませんでした。毎日『明日はきっともっと早くできるだろう』と考えていましたが、結局同じぐらい時間がかかっていました。荷物の片付けが私にとって大きな問題でした。」
「でも、この旅に出ることは自分で決めました。そして、ただ自転車で走るだけではなく、他のチャレンジもしたいと思っていました。走った距離だけではなく、夜ご飯を食べる場所、水を補給する場所、乾かすことも考えなければなりませんでした。そのため、現地の人々と交流することも必要でした。これは私が望んでいたことでした。」
「ここで一体何をしているんですか?」サンダルを履いてフランスの田舎道を一人自転車で走っていたラクランは、このような言葉を想像していたより言われませんでした。ただ自転車に乗っているだけで、素晴らしい開放感を感じました。
ラクラン・モートン - 「自転車に乗っているときは、多くの壁を打ち破ります。みんなフレンドリーでした!自転車に乗せている荷物を見て「この人は危なくない」と思ったのでしょう。(笑)汚れている服や、疲れてお腹が空いている様子を見ると、みんな優しくしてくれました。皆さんの思いやりを感じました。」
「フランスの田舎の人たちはそれほど優しくないかもしれない、と思っていました。自分の問題ですが、フランス語が話せないのもそう考えた理由です。しかし、実際には全然そんなことはありませんでした。本当に優しく、友好的で、親切でした。」
世界の中ではサイクリングコミュニティは小さいです。自転車に乗ることは、私たちにとって大切なことです。他の人々はそれぞれの目的を達成するために、さまざまなタスクに集中したりして自分の人生を生きています。自転車に乗って見晴らしの良い場所から世界を見るのはサイクリスト共通の楽しみです。これはラクランがAlt Tourをやってみようと考えた最初の理由でした。プロトンに閉じ込められフランスを走り抜けることは、モートンにとって魅力的ではなく、本来の目的から離れることでした。
ラクラン・モートン - 「私は人々の日常生活の様子を見るのが好きです。フランス南部の小さな村で、午後2時の生活を体験することができました。15分ほどそこで休み、バゲットを食べてからまた出発しました。」
「サイクリングの世界では大きなイベントでも、一般の人々にはあまり知られていません。それでいいと思っています!だから、私は気付くことができました。自分がやろうとしていることは、実際には大したことではないということに。多くの人が国中を自転車で走ってみたいと思っていますが、実際には仕事を休むことは難しいですからね!」
「ヒーローに会うな」という名言があります。ヒーローの本当の姿を見たら、あなたは失望してしまうかもしれないという意味です。ヒーローの性格が、思っていたものと違うことがあります。ラクラン自身は「ヒーロー」という言葉が好きではありません。若い頃、尊敬していたサイクリストに会ったり、競争したりもしました。
ラクラン・モートン - 「ワールドツアーのプロトンに入ってから、私の世界は変わりました。その時から、サイクリング界にヒーローはいませんでした。他のスポーツのアスリートについて知り、興味深いと思いました。キリアン・ジョルネというアスリートは、ランニング、デュアスロン、山岳スキーの世界で活躍しています。本当に興味深い選手です。」
「このようなアスリートから、多くの刺激をもらいました。マウンテンバイク選手のジョシュ・ブライスランドもレースをやめ、新しい目標を追いかけています。それには多くの勇気や努力が必要です。」
「私は彼らを『ヒーロー』とは呼びませんが、サイクリングのヒーローは、誰しもがとても前向きでした。私にとって『ヒーロー』とは完璧であるということです。それよりも『彼ら自身がしていることが大好き』であることはもっと重要です。そこからインスピレーションが得られます。」
「ロードサイクリングのパフォーマンスを見るとインスピレーションが湧きます。しかし、今は15歳の頃ほどモチベーションを得られません。モチベーションを高められるサイクリングの色々な世界を探求していきたいと思っています!」
「正直に言うと、今の自分を退屈に感じることがあります。これが私のプロセスです。新しい刺激を必要としています。」
ラクランがAlt Tourの思い出や経験について語ったとき、私たちは不意を突かれました。何か楽しいことや、チャレンジする時、どうして私たちは振り返るのでしょうか?大抵、人は良いことを覚え、嫌なことは忘れます。それはおそらく、忙しく多忙な環境に気を取られているためです。私たちの脳のメカニズムは本来、冒険に出る前、楽しみの期待を膨らませるため、苦しさを見えなくします。ラクラン・モートン - 「長い旅だったので、思い出がたくさんあります。ある意味で、思い出は1つの大きな経験になります。物語はたくさんありますが、私はそれを一つの経験として考えるようにしています。」
「とても良い経験でした。苦しいときや、不安なときが多くありました。問題があっても、負けることなくすべて解決することができました。機械的な問題はほとんどありませんでした。タイヤは9回パンクしましたが、距離を考えるとそれほど多くはありません。」
「この旅は、本当に良い経験だったと思います。旅が終わるまで、家族以外の人とはあまり交流せず、途中で出会った人も少なかったです。SNSを使っていませんでしたし、実際、携帯は1日1時間を除き「機内モード」にしていました。パリに着いたとき、色んな経験ができた私の旅は終わりました。」
「心の中で、この旅で得たものについて考えていました。この度に非常に満足していますし、本当に幸せでした。このことについて1週間話していると、良い経験や悪い経験、忘れられない経験を簡単に整理できます。」
「このような質問をよくされます。『最も難しかったことは何でしたか?』『最も良かったことは何でしたか?』です。私には答えがあります。山の頂上に沈む夕日、シャンゼリゼ通り、雨の中でのパンク、残り250kmで靴がなかったときのことを聞きたがります。誰もがこのような出来事が好きですが、そのほかの物語がなければ意味がありません。」
シャンパンはまだ開けないで!シャンゼリゼ通りが見え、数千キロメートルの距離を走り、数万メートルの累積標高を成し遂げたモートンは、妻の姿を見てもまだ終わりではないと分かっていました。
ラクラン・モートン - 「私の妻はシャンゼリゼ通りで待っていました。近くまで来ると『イェーイ!来た!やった!』という声が聞こえてきました。しかし、私はまだ50~60kmのラップが必要であると分かっていました。なので、気を緩めることなく走りました。自分に負けると、惨めな2時間となったでしょう!」
「妻を抱きしめるために、少しだけ立ち止まりました。それから『まだ終わっていないから、行ってくる』と彼女に言いました。すべてのラップを終えたときは、本当に最高でした!想像していたように完璧な最後でした。」
「少しの間、そこに座ってシャンパンを飲み、それからホテルまで歩きました。シャワーを浴びて、朝食に卵を食べました。完璧でした!」
『時に少しナンセンスなことは、賢い人たちに喜ばれます。』これは、ロアルド・ダール原作の映画『チョコレート工場の秘密』の中のお気に入りのセリフです。このセリフは、ラクランのインタビューにぴったりな言葉です。この映画の最後の方に出てくるもう一つのセリフ『疲れた世界で、善行は輝く』も合うと思います。ラクラン・モートンは、この偉業を自転車に乗り、自分の能力に挑戦することだと考えていますが、Alt Tourがそれ以上のものであることは誰もが知っています。
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