The wait of history
Team TIBCO–Silicon Valley Bankの女性アスリートたちは、格式あるルーベの石畳で新たな歴史を作り、真の男女平等を求めレースをしています。
フランス北部のどんよりした朝、 Team TIBCO–Silicon Valley Bank のクリステン・フォークナー(アメリカ)はチームメイトと共に石畳で有名なパリ〜ルーベの試走を行いました。ハーバード大学卒のクリステンがコース試走に参加したのは2度目。昨年10月に初の女性版パリ~ルーベとして予定されていましたが、最終的には新型コロナウイルスのためにキャンセルとなりました。
マンハッタンのミッドタウンの金融業界で一日12~15時間働くというまったく異なる持久力を持ち合わせたクリステンは、チーム内でもっとも落ち着いていた一人でした。なぜなら、スリッピーな石畳や、北フランス特有の砂利で覆われた曲がりくねったコースを得意としているからです。経験豊富なベテランアスリートでさえも気が遠くなるような難コース、まさに挑戦です。
3月下旬、 チームに合流したクリステンは冷製スープ「ガスパチョ」を食べていました。固まった泥をシャワーで洗い落としたあとで、少し感情的な様子でした。クリステンとチームメイトたちは女性初のパリ~ルーベが、2021年10月2日に延期になるかもしれないというモヤモヤとしてた日々を何週間も過ごしていたのです。2020年は各国の制限により、国際自転車競技連合(UCI)は60を超えるレースを中止しました。
「私たちは行き詰まっています。トレーニング方法や、どのレースを優先すべきか。もっと言えば、モチベーションを保つことさえ難しい状況にあります。パリ〜ルーベは、女性サイクリストにとって、本当に大きな出来事なのです。」
「これまでもたくさんのレースをしてきました。今もまだレースを続けています。最近は、女性のレースが男性のレースと同じくらいエキサイティングだと気づき始めているファンが増えています。」
– ローレン・ステファンズ
世界的に有名なレースに参加し、その魅力を広めるという責任は、女性レーサーだけにあるとは限りません。残念ながら、新型コロナウイルスの予防措置により、観客数は制限され、バイクに乗っていない時は表彰台でもマスクをつけなければなりません。そのため、 Team TIBCO–Silicon Valley Bank を含む各チームは、会場に来れないファンへどの様にして自らのレース活動やレースの魅力を伝えるのか必死に考えています。いまやバーチャルオーディエンスを獲得することは、とても重要です。
Boels-Dolmans で2シーズンを過ごし、2020年にチームに加入した最強クライマーの1人であるエヴァ・ブールマン(オランダ)は、彼女の得意なレースとは全く異なるレースの準備をしていることで、話題になっています。「パリ〜ルーベは厳しいレースですが、困難に立ち向かう準備はできています。このチームとこのレースに戻れて素晴らしい気分です。最近は、家族よりもチームと過ごす時間が増えています。とても楽しく、お互いを知る絶好のチャンスです。」と話してくれました。
元プロ選手で Team TIBCO–Silicon Valley Bank の創設者でもあるリンダ・ジャクソン(カナダ)は、カリフォルニアを拠点とするチームが今シーズンに備えているのを見るのは、本当に嬉しい、と。リンダはクリステン・フォークナーと同様に、1993年に投資家としての仕事を辞め、スポーツの夢を追いかけ、1996年のロードレース世界選手権で銅メダルを獲得し、最終的には1996年のアトランタオリンピックにも出場しました。
「サイクリングは女性も楽しめるスポーツ、と言えるようになりました。でも、この事実がどれほど凄いことか、世界中の人々が理解するまでには、しばらく時間がかかると思います。これらのレースのメディアへの露出は、私たちが何十年も戦ってきたものですから。パリ〜ルーベのようなサイクリングレースで、女性サイクリストが活躍する姿をテレビでもっと頻繁に見ることができたら、最高なものになるでしょう。」とリンダは話します。
女性サイクリングの進歩
パリ〜ルーベは、その難易度の高さから「北の地獄」とも呼ばれており、多くのファンが女性版の初開催を待ちわびています。現代社会では、ウェブ上で多くのことを調べることができますが、それでも女性プロサイクリングの歴史に関する情報は極めて少ない状況です。なぜなら、20世紀後半まで脚光を浴びることは少なく、プロスポーツとして認識されていなかったからです。
女性は1800年代からレースをしてきましたが、男性と同じような賞金やサポート契約を受取ることは難しい状況にありました。そう考えると、 Team TIBCO–Silicon Valley Bank のすべての女性ライダーが、レース活動を長期的に続けられるかどうか不安に思い、チームとの契約の前に特異的なキャリアを持っていたことも不思議ではありません。
1984年、初めて女性がオリンピック自転車競技に出場しました。これは男性と比べ約100年後のことです。最初の世界選手権女子ロードレースは1958年に行われ、最初の男子世界選手権から30年後のこと。また、最初の女性ツール・ド・フランスは1984年に開催されましたが、現在は行われていません。
また、女性は男性と比べレース距離が短く、メディア掲載も少なく、収入も比較的低いのが現状です。サイクリストアライアンスの2020年の調査によると、給与がゼロの女性プロサイクリストの数は、2019年の17%から2020年には25%に増加しました(注: Team TIBCO–Silicon Valley Bank のすべての選手には給与が支払われます。リンダ・ジャクソンがチーム創設時に、この事を最重要項目としました)。
イベントの視聴率が高いということは、広告収入が増えることを意味しますが、ネットワーク全体が女性のイベントを主催することを躊躇し、注目を引き付けることを懸念しているのであれば、困難を極めます。女性のイベントに関するメディアの報道も少ないため、資金提供のためイベントスポンサーを引き付けることも困難です。選手やチームにとっては、痛々しいほど悔しい問題です。しかし良いニュースがあります。現在この問題は小さくなってきています。テレビで放映される女性のレースの数は年々増加しており、視聴者数は記録的な数になっています。
「レース結果やレースの情報をTwitterに頼る必要がなくなってきました。」と、コンサートピアニスト兼 Team TIBCO–Silicon Valley Bank の選手であるエミリー・ニューサムは言います。「私はアメリカにいましたが、チームメイトがレースをしているのを画面を通じて見ることができました。これは私にとって大きな、大きな一歩です。」
「家族がいて、プロ選手になれて、本当に幸せです。どちらか一つだけを選ぶ必要はありません。その事実を世界中の女性に伝えたいです。」
– エミリー・ニューサム
2020年の新しいルールでは、レース主催者は、女性のワールドツアーレースで少なくとも45分のライブ放送をする必要があると規定しています。これにより収益が増えています。このスポーツを追求するため医療関係の仕事からプロサイクリストになったターニャ・エラスは、動きを歓迎しています。「多くのチームが最低賃金を採用しており、多くのチームが男性に合わせるため最低賃金を引き上げています。私たちが大きな声で世の中に訴えかければ、変わります。バイクに乗って夢を追いかけることができます。これからもこのスポーツを楽しむ女性たちに良い変化をもたらせるよう頑張りたいと思います。」とターニャは話しています。
プロ選手になる前、高校で数学を教えていたローレン・ステファンズは、より良い給料やより多くのサポートよりも、パリ~ルーベが女性ワールドツアースケジュールに組み込まれたこと自体、女性が成し遂げた進歩の証だと考えています。
「パリ〜ルーベのようなレースは、男性と同じだからではなく、多くの人々に知られているから重要なのです。アメリカでは、ツール・ド・フランスと同じくらい認識されています。私たちは数々のレースをしてきました。そして今もまだレースをしています。しかし今、ますます多くのファンたちが、女性がレースをしていることに気づき始めています。男性のレースを見るのと同じくらいエキサイティングで、私たちはもっと発展させたいと思っています。」と彼女は話しています。
女性サイクリストの台頭
プロサーキットで女性の人気が高まっているだけではありません。特にパンデミックをきっかけに、女性サイクリストの数は間違いなく増加しました。アメリカの自転車販売店では店頭から在庫がなくなり、多くのメーカーは需要拡大に対応するため生産ラインを増やしたりしています。ニューヨークからベルリンまで、多くの都市で女性のライダー数が急増しました。Stravaアプリにアップロードされた18〜29歳のアクティビティ数は、前年比で驚異的な45%増加となりました。
チームライダーのエミリー・ニューサムは将来を楽しみにしています。「私がロードバイクに乗り始めたとき、多くの男性サイクリストが歓迎し、親切にしてくれました。時間が経つにつれ、ますます多くの女性が増えてきているのを見て、とても嬉しく思います。女性のサイクリストが増えると、レベルに関係なく、強さとアクティブな美しさを世界に示すことができます。」と語っています。
娘がいるエミリーはテキサス在住で、今でも地元のカフェで週に1回は大好きなピアノを弾いています。女性サイクリストとしてだけでなく、Team TIBCO-Silicon Valley Bank の女性選手として与えられたこの環境に、エミリーは感謝しています。チームのユニフォーム、お気に入りのサングラス、イエローのスーパーシックスエボに乗って、エミリーは娘に自分の強さを見せています。
「サイクリングをしている母親も徐々に増えていて、出産後にチームに戻りサポートを受けているレーサーもいます。家族がいて、プロ選手になれて、本当に幸せです。どちらか一つだけを選ぶ必要はありません。その事実を世界中の女性に伝えたいのです。」と話してくれました。
彼女のチームメイトであるフォークナーは、さまざまな女性に勇気を与えています。「約50kgの小柄な女性と比較して、私ははるかに大きなライダーです。でも女性であろうとなかろうと、色々なサイクリストがいます。私は精神的にも身体的にも、強い自信があります。体重は関係ありません。それが最も大切なことです。」
すべての女性が難しいフランスの石畳のレースを征服することを熱望しているわけではありませんが、パリ郊外の農地であろうとアメリカであろうと、汗をかいて走るプロサイクリストを応援する人は増えてきています。
あらゆる手を尽くす
この秋、6人の選手がレースで集まることは、ジャクソンにとって大きな意味があります。「男性と同じチャンスがあることは当然だと思うべきです。私たちは何度も何度もその実力を見せてきました。」とリンダは述べました。
クリステンは、多くの女性と同じように、同意見です。ロンド・ファン・フラーンデレンで10位という印象に残るレースデビューを果たしたにもかかわらず、彼女は10月に今よりもっと強くなりたいと願い、さらにレベルアップするため来年はヨーロッパに移住することを考えています。チームと共に、明るい未来と女性サイクリング界をリードすることに自信を持っています。
「全力を尽くす準備はできています。ツールのため。パリ~ルーベのため。すべてのために。 Team TIBCO-Silicon Valley Bank は、まだワールドツアーレースで優勝したことがありません。私が変えます。私たちならできると信じています。」
– クリステン・フォークナー
一緒に走りましょう
ライダーの皆さん、一緒にパリ~ルーベレースと同じ距離を自転車で走ってみませんか? 4月11〜18日までの間に116kmを1回のライドでも、1日でも、または1週間でも、ぜひ走りましょう。
https://www.strava.com/challenges/cannondale-choose-to-challenge
ライターについて
エミリー・アバーテ - ニューヨークを拠点とするベテランフィットネスジャーナリスト(GQ、SELF、 Runner’s Worldなど)、ウェルネスコーチ、Hurdleポッドキャストのホストです。
パソコンやマイクを持って仕事をしていないときは、ランニングやサイクリングをしています。今まで9つのマラソンに参加し、認定ランニングコーチ兼トレーナーです。今年の夏にはバイクパッキングの旅に出る予定です。
Instagramでフォロー: @emilyabbate.